
「断崖絶壁」のデザインの魅力
2013.10.02 0:24

現在開催中の「埼玉県立近代美術館のポスター・デザイン」では、
歴代の企画展ポスターから代表作を紹介しています。
なかでも「開館10周年記念 アダムとイヴ」(1992年)のポスターは、
ドイツの美術家ユルゲン・クラウケの作品を使った、妖しい魅力を放つ1枚。
このポスターをはじめ、数々のポスター・デザインを手がけた水谷を
埼玉県立近代美術館の吉岡さんに取材していただきました。
この展覧会はタイトルの勝利ですよね。
男と女の愛がテーマなら、「LOVE」とか 「男と女のエロティシズム」とか、
別のタイトルもありえただろうけれど、「アダムとイヴ」という、
知性もありつつロマンティックなタイトルにしたところが とっても埼玉近美らしい。
都心の美術館ならもっとキャッチーな方向にするでしょうし、
僕のデザインも全然違ったと思います。
美術館のデザインをするときには、その館の環境や、
学芸員とそこに来る人たちが何をほしがっているかをつねに考えていました。
デザインって、私小説のようではダメで、答えは相手にあるんです。
僕は、デザインは社会とコミュニケーションするもの、
人をわくわくさせるエンタテイメントなものだと思っています。
企画展のポスターなら、「展覧会に行ってみよう!」って見る人に思わせないと。
だから、このポスターではクラウケのドイツ的な重たさに、あえて真っ赤な字で大きく
「Adam & Eve」って、アメリカン・ポップのセンスを入れ込んだ。
暗いものをより暗くするのではなく、元気でポップな要素も必要だと。
それによって、陰と陽がいい バランスでまとまる!という野性的な直感がありました。
図版にクラウケを選んだのは、新鮮さと現代性を入れ込みたかったから。
古典的なアダムとイヴ像を選 ぶ手もあるけれど、この展覧会はいわゆる「泰西名画展」ではない。
男と女のエロティシズムという展覧会全体の雰囲気を伝えつつ、
人をびっくりさせるにはクラウケが1番だと思いました。
これだけいろんなものが街に溢れていると、ありきたりのポスターには誰も反応しませんよね。
だから、僕は狂気の部分も含めて、ぎりぎりの断崖絶壁でデザインする。
一歩踏み外すと、社会的に問題になるかもしれない
許容範囲すれすれのところにどう入れ込むかが、デザインの魅力だと思います。
そこには、人間の本能をくすぐる強さやセクシーさがあって、人が立ち止まって見てくれる。
最終的に「展覧会に行ってみたい!」と思ってもらえれば、
コミュニケーションが生まれたってことです。
あと、デザインは批評家だけが面白いと思ってもダメで、
みんなに分かりやすいもので なくちゃいけない。
それを大衆迎合的と否定する考え方もあるけれど、
僕が目指しているのは「安心できる楽しさ」ではなくて、
断崖絶壁の危険なところでデザインすると、
批評家も子どもからおじいちゃんまでもみんなが面白い! と思うものができる瞬間があるんです。
とても難しいことですけど、僕はそれをつくりあげていきたい。
「アダムとイヴ」のポスターは、クラウケの作品と展覧会タイトルとデザインとが
絶妙な距離感でコラボレーションできて、断崖絶壁にかなり近づけたかな、と思っています。
展覧会ポスターは、捨てられてしまえば紙のゴミと変わらないじゃないですか。
でもせっかくつくるなら、僕は光であり、宝物になるようなものをつくりたい。
デザインは最終的に、人に希望と勇気を与えるものだと思っています。
埼玉県立近代美術館のポスター・デザイン
会期:2013年9月25日(水)〜10月20日(日)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 1階ガレリア
休館日:会期中無休
開館時間:9時〜22時
観覧料:無料
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